レセプト業務とは?
請求の仕組みや流れについてわかりやすく解説

医療事務の業務の一つに「レセプト業務」というものがあります。レセプト業務は、患者さんが窓口で支払った一部負担金以外の診療報酬を保険者へ請求する業務です。医療事務における業務の中でも専門性が高いため、お仕事を始める前に資格を取得し、知識を身につけておくことが望ましいでしょう。ここでは「レセプト業務とは何か」という基本の部分から、診療報酬の支払われる仕組み、レセプト業務の流れなどを詳しくご紹介していきます。これから「医療事務として働いていきたい」とお考えの方に参考になる内容をまとめています。

レセプト業務とは?

レセプト業務とは「レセプト(診療報酬明細書)」を作成、点検、提出し、健康保険、国民健康保険などの保険者へ診療報酬を請求する一連の業務のことをいいます。「診療報酬」とは診療に要した費用のことで、厚生労働省が定めた法律によって決められており、点数は1点=10円で算出されます。

患者さんが受診時に窓口で負担する医療費は「一部負担金」と呼ばれ、年齢や収入によって1~3割の負担となっています。残りの7~9割は、患者さんが加入している健康保険組合などを運営する「保険者」が負担する流れとなります。医療機関が残りの7~9割の医療費を保険者へ請求する業務がレセプト業務であり、医療機関の収益の大部分を占める重要な業務といえます。

診療報酬が支払われる仕組み

ここでは、診療報酬が支払われる仕組みを見ていきましょう。

医療機関の役割

医療機関は受診日ごとに患者さんの診療内容を会計データとしてレセコン(レセプトコンピューター)に入力します。月末に会計データを集計したレセプトを出力し点検、医師などへの確認作業を経たのち、審査支払機関へレセプトデータを提出します。

患者さんの役割

患者さんは自身が加入している保険の保険者に保険料を納めます。医療機関を受診した際に、保険者から交付された保険証を病院の窓口で提示し、診察終了後、窓口で一部負担金の支払いを行います

保険者の役割

保険者には共済組合、健康保険組合、全国健康保険協会(協会けんぽ)、国民健康保険組合、都道府県後期高齢者医療広域連合など、さまざまな組織があります。

保険者は、保険料を納めている被保険者やその家族(患者さん側)に保険証の交付を行います。審査支払機関から提出されたレセプトをチェックし、被保険者が各医療機関へ窓口で支払った一部負担金以外の診療報酬を支払います

審査支払機関の役割

社会保険診療報酬支払基金と国民健康保険団体連合会の2つの機関があり、どちらも、国によって設立が定められた第三者機関です。2つの機関とも各都道府県に47の事務局または支部が設置されています。

医療機関から提出された診療報酬請求書とレセプトの内容を確認し、保険医療機関に医療費の入金を実施します。保険者ではなく独立した審査支払機関が支払いや点検業務を行う理由は、審査および支払業務を迅速に対応するため、また審査の公正性を維持するためです。

レセプト業務の流れ

レセプト(診療報酬明細書)のベースとなる診療情報を、会計業務と並行して、レセコンに入力します。外来患者さんは来院のたびに、入院患者さんは1日ごとや毎月の請求書の締め日ごとにレセコンの入力作業を行います。

レセプトの作成(出力)

月末の診療を終えた時点で、各患者さんの1カ月間の診療内容・診療報酬の記録であるレセプトを作成します。

規模の大きな病院では数千件ものレセプトを出力することもありますが、毎回の診療時にデータの入力作業をしているので、出力にはそれほど時間はかかりません。出力したレセプトは多くの個人情報が載っていますので、取り扱いには十分注意しなくてはなりません。

レセプトの点検

レセプト点検ではレセプトに記載してある傷病名と診療行為、処方薬との整合性などを目視でチェックしていきます。

診療行為に対して適切な病名がついているか、診療報酬の規定以上の回数の検査が行われていないかなど細やかな点検が必要です。病名をつける、規定にあてはまらない検査内容の削除、コメントの追加など適切に処理していきます。

患者さんによっては医療費助成制度で、公費負担医療を利用する人もいます。公費の種類には、国が負担する特定疾患や感染症医療費、地方自治体が負担する乳幼児医療費などがあり、それらの請求を行うこともレセプト業務の一環です。

正しくレセプト点検を行うためには、診療内容と診療点数表と呼ばれる算定ルールの理解を基本とし、幅広い知識や経験が求められます。そして、とにかく経験を積むことが大切です。また、診療報酬は2年に1度改定されるため、レセプト点検の経験者であっても知識のアップデートが欠かせません。

医師による確認

医療事務スタッフの点検が一通り終わったら、レセプトの傷病名と診療行為、処方薬などで整合性が取れないものは、医師に確認してもらいます。レセプトの内容によって、添付資料や意見書の提出が必要な場合があるので、それらの依頼もこのタイミングで行います。

審査支払機関に提出

作成したレセプトデータはオンラインにて審査支払機関に提出します。レセプトの提出期限は毎月10日と定められており、期限間近になるとシステムエラーが起きた際に対応できない危険性があるため、できるだけ余裕を持って送信作業を行います。レセプトデータの提出後は審査支払機関で入念な確認作業がされ、不備があれば査定や返戻処理がなされます。

査定とは?

査定とは、審査支払機関がレセプトの記載内容を修正した上で、健康保険組合や共済組合、市区町村などに診療報酬を請求する業務です。レセプトに記載されている内容が不適切であると判断された際に行われます。

例えば、レセプトに記載してある病名と関係ない検査費用の請求があった場合、検査費用を差し引いた点数での診療報酬の支払いしかされません。

返戻とは?

返戻とは、審査支払機関では内容が適切であるかどうかを判断できない場合に行われるものです。レセプトそのものが差し戻されるため、医療機関は内容を精査・修正して再提出しなければなりません。

不備のあるレセプトが多いと査定や返戻の件数も多くなってしまいます。査定は医療機関の減収に直結し、返戻の場合は診療報酬の支払いが遅れます。そのため、レセプト業務では査定や返戻の件数を1件でも減らすことが求められるのです。

未経験だとレセプト業務は難しい?

ここでは、未経験からレセプト業務を行うための方法を見ていきましょう。

医療機関の収益を左右する重要な業務

レセプト業務は医療機関の収益の大部分に関わる重要な業務です。窓口業務や会計業務などに比べ、レセプト業務は診療報酬に関する専門知識が求められます。

レセコンによるレセプトの自動作成が普及していますが、レセプト内容が正しいかどうかの最終的な判断は医療事務スタッフに委ねられています。限られた時間の中でレセプト業務をどれだけ正確に処理できるかによって、医療事務員としてのレベルが決まるともいえるでしょう。

レセプト点検を正確に行うためには、診療報酬の算定知識の習得と経験が不可欠です。医療機関ごとにレセプト点検の細かな流れは違うので、わからないことは先輩に質問して効率の良いやり方をまねることもおすすめです。また、職場内で開催される勉強会があれば、積極的に参加して知識のアップデートに励みましょう。

査定や返戻などを受けた箇所については、ノートにまとめたり、レセコンのメモ機能に登録したりと、同じ失敗を繰り返さないように対策を講じることも大切です。

未経験者は資格取得がおすすめ

残念ながら、全く医療事務の知識がない状態でレセプト点検業務を行うのは非常に難しいかもしれません。保険診療の仕組みや、診療報酬の計算、レセプト請求の流れなどは医療事務に携わったことがないと、理解するのに時間がかります。

医療機関によってはスタッフの人数に余裕がない状態で、丁寧な新人研修が行われないまま、レセプト業務が始まる場合もあります。わからないことはもちろん先輩に聞くこともできますが、レセプト業務を行う期間は非常に忙しくなるので、初歩的なことを何度も質問するのは気が引けるかもしれません。

そんな未経験者の方には、医療事務講座を受講して、資格を取得することをおすすめします。講座を受講することで、医療事務に関する基礎やレセプト点検などに関して体系的に学べます。

資格を取得していれば、医療事務の基本的な知識は身についていると判断され、求職活動が有利になることもあるでしょう。実際に医療現場で働き始めてからも、一通りの知識があれば、レセプト点検などの実務作業をする際にもスムーズに始められます。

どのような仕事でもいえることですが、新しい職場で働き出すと、最初は不安なことが多いものです。特に、医療事務職は他の職種のスタッフや患者さんなど、さまざまな人と接する機会が多いだけでなく、人の命にも関わる対応もあるので、幅広い知識が要求されます。そんなとき、日々努力して取得した資格を持っていることは自信につながり、不安な気持ちを和らげてくれるのではないでしょうか。

医療事務の主な資格試験

医療事務にはいくつかの資格があるため、ここでは主な資格試験をご紹介していきます。

医療事務認定実務者®試験

2016年に開設された比較的新しい資格ですが、2021年度の受験者数は1万6千人以上となり、医療事務の資格試験の中でも認知のある資格試験となります。レセプト作成に関する問題の他に、接遇マナーなど医療事務の業務に必要な知識・スキルを幅広く身につけることができます。試験は在宅で可能、全て4択のマークシート形式なので、初めて医療事務の資格試験を受ける方でもチャレンジしやすいでしょう。

診療報酬請求事務能力認定試験

公益財団法人日本医療保険事務協会が主催する医療事務資格の最難関といわれる試験です。実技試験と学科試験があり、実技試験では、入院・外来カルテの症例を見ながら実際にレセプトを手書きで作成しなければなりません。他の資格試験と違い、レセプトに特化した資格試験となります。

学科試験でも診療報酬の算定ルールなど業務に関わる基礎知識が理解できているかを問われます。合格のためには専門的な知識が必要であり、初心者が独学で学ぶにはハードルが高い試験といえるでしょう。

診療報酬請求事務能力認定試験の合格率は30%と低いですが、医療事務未経験者の応募要項として、この試験の合格を条件としている医療機関もあります。また資格取得によって経験者相当の待遇や資格手当などの可能性もあるので、未経験で医療事務の仕事に就きたい方にはこちらの資格がおすすめです。

まとめ

これまで説明してきたようにレセプト業務は医療事務の業務の中で、最も重要で難しいものといえます。専門用語や算定のルールも膨大なので、何もわからない状態で実務に携わることは難しいのが現実です。レセプト業務では、正しい知識を身につけ、経験を積み重ねることが欠かせません。

未経験から医療事務を目指すのであれば、レセプト点検を含めた医療事務の知識を効率良く学べる資格講座の受講がおすすめです。資格を取得すれば求職活動が有利になるだけでなく、実際に仕事に就いてからも、スムーズに実務を行えます。ヒューマンアカデミーでは医療事務の資格を目指すためのさまざまな講座があるので、自分に合ったものを探してみてはいかかでしょう。

<執筆者>
氏名:黒江 佳子

保有資格:診療報酬請求事務能力認定試験/2級医療秘書実務能力認定試験
医療事務員として、2018年より総合病院に勤務し、外来部門の受付・会計・レセプト業務を担当。独身時代にヒューマンアカデミーで取得した資格を活かしたいと考え、子育てが落ち着いたタイミングから勤務を続けている。現在は、新人育成にも携わりながら、接遇スキルと医療事務の知識向上のため日々勉強中。

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